A:新型コロナ規制を全廃へ、隔離措置も廃止へ
B:新型コロナを通常感染症に、首相が検討を指示
「え、そうなの」と驚いたかもしれませんが、これらは日本で決まったことではなく、Aはイギリス、Bはベトナムの話です。いずれも2022年2、3月のニュースです。
そして日本でも、海外ほど大胆ではありませんが警戒を緩める動きがみえ始めています。
これまで企業や病院、介護施設などで感染症対策に苦心してきた衛生担当者は「ようやく落ち着く」と感じるかもしれませんが、「あの菌やあのウイルス」を忘れないようにしてください。
「あの菌やあのウイルス」とは、大腸菌、緑膿菌、黄色ブドウ球菌、肺炎桿菌、風邪のウイルス、インフルエンザウイルス、ノロウイルスなどのことです。
これらの病原体は新型コロナの影に隠れていましたが、その脅威は劣化していません。
病源体対策は、仮に新型コロナが沈静化しても継続したほうがよいでしょう。
しかし安心してください。これまでの新型コロナ感染症対策を継続すればよいだけです。
それくらい今の感染症対策は仕上がっていて、他の病原体もしっかり押さえこむことができます。
警戒がすぐに緩むのは人の常だからこそ
企業や病院、介護施設などで衛生や職場環境を担当している方は、せっかくつくりあげた感染症対策を弱体化させないようにしてください。
感染症対策は手間がかかる作業であり事業者にとってコストなので、経営者のなかには新型コロナが沈静化したら感染症対策を解除したいと考えている人もいるでしょう。
経営者が感染症対策を不要であると感じたら、従業員も「面倒なこと」はしたくないので感染症対策は一気にしぼんでしまいます。
危機がすぎると警戒が緩むのは人の世の常です。
しかし新型コロナ感染症対策は、他の病原体対策を兼ねることができます。
そしてこれまでの感染症対策が「鉄壁」だったからこそ、その他の病原体を忘れることができていた、といっても過言ではありません。
警戒を解いたあとにまた警戒するのは大変
現在の感染症対策を解除したあとに他の病原体が流行し始めたら、また対策を構築しなければなりません。そのとき「またか」と徒労感に襲われるでしょう。そして再構築に時間がかかれば被害が広がってしまいます。
それならば警戒を解かず、現在の感染症対策を続けたほうがよいはずです。
病原体を忘れていられたのは感染症対策を強化していたから
新型コロナ感染症対策が、その他の病原体の対策になっているのは事実です。
東京都の第2~4週(その年の1月中~下旬)のインフルエンザ患者数は、2018年、2019年は1定点当たり50~65人でしたが、2020年は10~15人、そして2021年と2022年は1人程度にまで激減しています。つまり東京都のインフルエンザ患者数はコロナ禍で、例年の50~65分の1にまで激減しているのです。
インフルエンザ患者が激減したのは、3密回避、手洗い、マスク着用が徹底したからとみられています。
「新型コロナを予防できる方法なら、インフルエンザを抑え込むことができる」と考えてよさそうです。
インフルエンザだけではなく、マイコプラズマ肺炎、RSウイルス感染症、手足口病、ヘルパンギーナ、ノロウイルスやロタウイルスによる感染性腸炎の患者数も、コロナ禍のなか減っています。
これらの病原体の減少傾向も、手指消毒、マスク、軽い症状でも自宅休養する習慣といった新型コロナ感染症対策が奏功したとみられています。
油断できないのは病源体が賢いから
新型コロナ感染症対策は他の病原体の流行を抑えこんだわけですが、しかしこれをもって病源体を完全に制圧できたわけではありません。
対策を緩めれば再び勢力を取り戻すはずですし、対策を講じていても反対攻勢に出てくるウイルスもあります。
小さな子供がかかりやすく、重症化すると肺炎や気管支炎に進んでしまうことがあるRSウイルス感染症は、2020年シーズンは抑え込むことができましたが、2021年シーズンは急増してしまいました。
これは、RSウイルス感染症が激減したことで子供たちがRSウイルスに対する免疫を獲得できず、それで次の年に大流行してしまったと考えられています。
病源体は「対策を強化して病気を減らすと免疫が獲得できなくなる」という人類の弱点を突いてきます。
「有名な病源体」はこれだけ賢いからこそ、長年に渡って人類を苦しめることができているのです。
あらためて病源体を1つひとつ正しく恐れていく
新型コロナが沈静化しても社内や院内や施設内の感染症対策を継続するには、関係者全員が病原体を正しく恐がる必要があります。
経営者と衛生担当者と従業員が「だから恐い」「だから対策を緩めるわけにはいかない」という思いを共有できれば油断するはずがありません。
大腸菌、緑膿菌、黄色ブドウ球菌、肺炎桿菌、風邪のウイルス、インフルエンザウイルス、ノロウイルスの特徴を紹介しますので、どれくらい恐いものであったか思い出してみてください。
大腸菌とは
大腸菌は健康な人の腸内にも存在しその多くは無害ですが、そのなかのいくつかが下痢や深刻な合併症を引き起こします。病気を引き起こす大腸菌を、病原大腸菌と呼んでいます。
そして病原大腸菌のなかでも恐いのは腸管出血性大腸菌で、出血を伴う腸炎や溶血性尿毒症症候群という病気を引き起こします。
O157やO26などの腸管出血性大腸菌は、牛などの家畜や人の腸内からみつかることがあります。
緑膿菌とは
緑膿菌は家庭の洗面所、浴室、トイレなどの水回りに普通に存在する菌で、健康な人には無害であることが多い特徴があります。
ところが持病などによって感染防御能力や免疫機能が低下している人が緑膿菌に感染すると内臓が障害されたり呼吸器が侵されたり、敗血症を引き起こすこともあります。
敗血症とは、命を脅かすレベルの感染に対する体の反応で、組織障害や臓器障害を引き起こし、最悪死にいたります。
黄色ブドウ球菌とは
ブドウの房のように球状の粒が並んでいることからこの名称がつきました。
黄色ブドウ球菌は、おにぎり、寿司、肉、卵、乳製品などさまざまな食品に付着して増殖します。この菌が付着した食べ物を食べることで人に感染します。
感染すると3時間ほどで吐き気、嘔吐、腹痛、下痢を引き起こします。
また黄色ブドウ球菌は、おでき、ニキビ、水虫の原因になることもあります。
肺炎桿菌とは
肺炎桿菌(はいえんかんきん)は、グラム陰性桿菌と呼ばれることもあります。
この菌も人の腸内に普通に存在することが多く、健康な人には無害です。しかし免疫力が低下すると、肺炎桿菌が原因となって肺炎、尿路感染症、敗血症などを引き起こします。
風邪のウイルスとは
新型コロナウイルスの出現で「コロナ=とても恐いウイルス」と理解されるようになりましたが、それほど恐くないコロナもあります。
HCoV-229E、HCoV-OC43、HCoV-NL63、HCoV-HKU1の4種類はヒューマン・コロナウイルス(HCoV)といい、普通の風邪を引き起こします。
また、ライノウイルスというウイルスも風邪の原因になります。
風邪の正式名称は風邪症候群といい、鼻から喉までの間に起きる急性の炎症による症状の総称であり、どのウイルスが引き起こしているかは問いません。
ヒューマン・コロナウイルスやライノウイルスなどが鼻や口から体内に侵入し、粘膜に付着して増殖することで鼻水、発熱、頭痛、倦怠感などを引き起こします。
インフルエンザウイルスとは
インフルエンザも、ウイルスに感染して発熱や倦怠感などを引き起こすのは風邪と同じです。インフルエンザと風邪を区別するのはウイルスの種類と症状の重さです。
国立感染症研究所はインフルエンザのことを「インフルエンザウイルスを病原とする気道感染症」と呼んでいます。インフルエンザウイルスが引き起こす、風邪より重い症状の病気をインフルエンザといいます。
インフルエンザの症状は、38度以上の発熱、頭痛、全身倦怠感、筋肉痛、関節痛、咳、鼻水となっていて、これだけでも風邪の症状より重いことがわかります。
そしてインフルエンザが「いまだ人類に残されている最大級の疫病」と恐れられているのは、高齢者や持病を持っている人がインフルエンザを発症すると、別の細菌に感染しやすくなって感染症を起こし、入院が必要になったり死亡したりするからです。
よく「新型コロナウイルス感染症も、インフルエンザ並みになれば安心できるのに」といった意見を耳にしますが、それはそのとおりなのですが、「インフルエンザ並み」は相当恐い状況であることも知っておいてください。
ノロウイルスとは
ノロウイルスは人の腸内やカキなどの貝のなかにいて、それらが何らかのきっかけで人の口に入って感染します。
ノロウイルスはたった100個でも感染することから、1人が感染してしまうとあっという間に周囲に広がってしまいます。
感染すると24~48時間後に吐き気、嘔吐、下痢、腹痛、軽度の発熱を引き起こしますが、1、2日で治ります。
今の感染症対策はすごい「進化して強くなった」
企業や病院、介護施設などの関係者に「感染症対策と病源体対策は、仮に新型コロナが沈静化しても継続したほうがよいでしょう」と提案する理由はもう1つあります。
それは企業や病院、介護施設の感染症対策がコロナ禍において格段に進化したからです。
この感染症対策スキルは事業者の財産になっているはずです。これを使っていかないのはもったいない話です。
「院内感染対策できている」が42%から62%に急増
医療情報を提供している株式会社eヘルスケア(本社・東京都千代田区)は2021年6月、医師を対象にした新型コロナ関連アンケートの結果を公表しました。アンケートは2020年3月から2021年2月まで8回行い、延べ4,640人の医師が回答しました。かなり力の入った調査です。
このなかで院内感染対策について尋ねたところ、2020年3月は「よくできていると思う」(6%)と「まあできていると思う」(36%)の合計は42%でしたが、その1年後の2021年2月には「よくできていると思う」(11%)と「まあできていると思う」(51%)の合計が62%にまで増えました。
コロナ禍が医療機関の感染症対策を鍛えたといえます。
この向上は、危機に対応しているうちに自然にできあがったものではありません。
株式会社医師のとも、が2020年7月に医師を対象に行なったアンケートでは、88%が仕事でストレスを感じていて、新型コロナによってストレスが増えたと感じている医師は68%にのぼりました。
また、仕事のストレスで最も多かったのは「感染リスク」の72%で、2位は「感染症防止のための業務増加」47%でした(複数回答)。
これらのアンケート結果から、医療従事者たちが、感染リスクの脅威と向き合いながら院内感染対策を構築していったことがわかります。
企業にも優れたノウハウが蓄積されている
日本経済団体連合会(経団連)は2020年5月に「オフィスにおける新型コロナウイルス感染予防対策ガイドライン」を作成し、その後これを「改訂」して、さらに「再訂」して、そして2021年10月に「三訂」版を発表しました。
これだけバージョンアップを繰り返したガイドラインのクオリティは驚くほど高く、すべての企業が参考にできるものになっています。
この三訂版ガイドラインのなかか、特筆すべき感染症対策をいくつかピックアップしてみます。
- 経営トップが率先し、新型コロナウイルス感染防止のための対策の策定・変更について検討する体制を整える
- 労働安全衛生関係法令を踏まえ、衛生委員会や産業医等の産業保健スタッフの活用を図る
- 従業員に対し、健康観察アプリの活用などを通じ、毎日の健康状態の把握を奨励する
- 出勤時に、体調の思わしくない者には各種休暇制度の取得、医療機関での検査や受診を奨励する
ここから感染症対策は、1)経営トップの意識が重要である、2)従来からの衛生スタッフ、保健スタッフの活躍が欠かせない、3)従業員の健康管理にITが有効である、4)従業員ファーストで企業活動を進めなければならない、といったことがわかります。
企業の9割以上が新型コロナ感染症対策を講じているという調査結果もあることから、多くの企業がこのような質の高い感染症対策を講じているはずです。
この流れを新型コロナ沈静化後も継続することで、衛生経営や健康経営がより強化されるはずです。
新型コロナ対策の抗菌コーティングが他の病原体対策にもなる理由
もし企業、病院、介護施設などが感染症対策の一環として抗菌コーティングを導入していたとしたら、これもその他の病原体対策になります。
抗菌コーティングは、ウイルスや細菌を死滅させる物質を液体にして、それを室内に噴霧します。
ドイツ生まれの抗菌コーティング「ティタノ」は、製造元のヘコソル社(本社・ドイツ、バンベルク)が、さまざまなウイルスや細菌を死滅させる効果があることを確認しています。
▶︎ティタノが死滅させることができたウイルスと細菌
病原体の名称 | 減少率 | 減少までにかかった時間 |
---|---|---|
大腸菌 | 99.999% | 5分 |
緑膿菌 | 99.999% | 1時間未満 |
黄色ブドウ球菌 | 99.999% | 2時間未満 |
肺炎桿菌 | 99.999% | 4時間未満 |
ライノウイルス | 99.999% | 2時間未満 |
ノロウイルス | 99.999% | 24時間 |
ティタノなら、新型コロナ感染症対策として導入した場合でも、そのままその他の病原体対策になります。
まとめ~多くの犠牲を払ってしっかりつくりあげたものだから
国立感染症研究所が「人類に残されている最大級の疫病」と警戒するほどのインフルエンザが、新型コロナ感染症対策であっさり静かになりました。コロナ禍前から今の感染症対策を実施していたら、何人の人を救えていたでしょうか。
コロナ禍が終結しても、他の病原体に感染して苦しんだり亡くなったりしては元も子もありません。
現在の感染症対策は、人類が、そして日本人が、多くの犠牲を出して知恵を絞って編み出した手法であり、しかも高い効果があることが証明されています。そのノウハウは今、企業、病院、介護施設などに蓄積されています。
それを大切に守っていくためにも、感染症対策を継続していきませんか。