なぜ抗菌といえるのか、殺菌や消毒と何が違うのか

なぜ抗菌といえるのか、殺菌や消毒と何が違うのか

ウイルス対策で用いられる「ティタノ」は抗菌コーティングといいます。
ティタノには、コロナウイルスを死滅させることができる酸化チタンという成分が含まれていますが、殺菌とは呼ばず抗菌を名乗っています(*1、2)。

殺菌という言葉のほうが、抗菌という言葉より強いイメージがあります。
そのため「ティタノには殺菌効果があります」とPRしたいところなのですが、それは法律上、またはビジネスのルール上、許されません。

そこでこの記事では、滅菌、殺菌、消毒、除菌、抗菌、減菌などの「○菌」用語の解説をします。
ただ最初におことわりしておきますが、これだけ多くの似た言葉が存在することからも推測できると思いますが「○菌用語の世界」は混乱しています。

*1:https://titano-coating.jp/
*2:https://www.a.u-tokyo.ac.jp/topics/topics_20210521-1.html

名称が異なるのは与えるダメージの強さが違うから

名称が異なるのは与えるダメージの強さが違うから

滅菌、殺菌、消毒、除菌、抗菌、減菌は、微生物(細菌、真菌、ウイルス)に与えるダメージの強さが異なります。強い順番は次のとおりです。

●滅菌>殺菌>消毒>除菌>抗菌>減菌

これらの「○菌」用語の意味には複数の解釈がありますが、日本石鹸洗剤工業会の定義がわかりやすいと思うので紹介します(*3)。

<「○菌」の定義(日本石鹸洗剤工業会の定義を要約)>

 滅菌すべての菌を死滅、除去した状態。菌の生存確率を100万分の1以下にする。器具などに付着した菌に対する用語。
 殺菌菌を殺すこと、死滅させること。ただ、どの程度殺したかは問わない。一部でも殺したら殺菌と呼ぶこともある。医薬品や医薬部外品に使われる用語であり、洗剤や漂白剤などの雑貨品には用いられない。
 消毒病気を引き起こす微生物を死滅、除去した状態。または毒性を無力化した状態。医薬品や医薬部外品に使われる用語。
 除菌菌の数を減らして、清浄度を高めた状態。
抗菌菌の増殖を防止した状態。
減菌菌の量を減らすこと。

「わかりやすい」と紹介しましたが、この定義でもいろいろな疑問が湧くと思います。

<「○菌」の定義に関する疑問>
●滅菌と殺菌と消毒は、結局は同じ意味なのではないか
●除菌と抗菌と減菌の違いがわからない
●なぜ「消毒」だけ「菌」が含まれていないのか
●菌と微生物は違うのか

このような疑問が湧くのは当然で、定義している日本石鹸洗剤工業会も、雑貨品に分類される漂白剤でも、一般的に「消毒する」という言葉が使われている、と説明しています(*3)。
消毒は医薬品や医薬部外品にしか使ってはならない用語なので、厳密には「漂白剤で除菌する」が正解なのでしょう。

また、菌と微生物の違いも厳密な意味と生活レベルでの意味が異なり、混乱させます。この点については後段で解説します。

*3:https://jsda.org/w/03_shiki/a_sekken30.html

滅菌が優秀で減菌が劣っているわけではない

滅菌が優秀で減菌が劣っているわけではない

「滅菌>殺菌>消毒>除菌>抗菌>減菌」と表記すると、滅菌が最も優れていて減菌が頼りないように感じるかもしれませんが、そうではありません。

滅菌は与えるダメージが強すぎるので、滅菌作業をすると微生物だけでなく人も健康被害を受けます。
例えば、人にはさまざまな菌がすみついていて、なかには健康にプラスになる菌もあります。もし人を滅菌したら、つまり人にすみついている菌をすべて死滅させるほど強い液剤を人に吹きつけたら、人も死んでしまいます。
※生物である以上、生きていても死んでいても、そこには何かしらの菌が存在します。滅菌という言葉はほとんどの場合で器具などを対象として使われています。

そのため、人と微生物が共存するには、除菌、抗菌、減菌ぐらいがちょうどよいこともあります。
滅菌、殺菌、消毒、除菌、抗菌、減菌は、目的に応じて使いわける必要があります。

ウイルスは菌ではないから殺菌で殺せない――わけではない?

ウイルスは菌ではないから殺菌で殺せない――わけではない?

「○菌」の「菌」について説明します。
人に害を加える極めて小さなもののことを微生物といい、これには細菌と真菌とウイルスがあります。

●微生物とは:細菌、真菌、ウイルスのこと
細菌は細胞を持ち、自分で増えることができる生き物で、大腸菌やレンサ球菌などがこれに該当します。
真菌も細胞を持って自分で増えることができる生き物ですが、細菌より複雑な構造を持ちます。カビ、キノコ、カンジダを起こす菌などが該当します。
ウイルスは細胞がなく、自分で増えることができず、他の生物の細胞に寄生して増殖します。そしてウイルスは生き物ではない、とされています。

●細菌と真菌:生き物
●ウイルス:生き物ではない

殺菌という名称で使われる「菌」は、厳密には細菌や真菌のことで、ウイルスは含みません。
では、抗菌コーティングや殺菌剤でウイルスを死滅させられないのかというとそうではありません。
ではなぜ「殺ウイルス」と呼ばないのかというと、ウイルスは生き物ではないので、殺せないし死なないからです。厳密にいうと「ウイルスを死滅させる」は誤用となります。
厳密な表記では、ウイルスの活動を停止させたり、増殖させないようにしたりすることを不活化といいます。

先ほどから「厳密」という言葉を多用していますが、それにはわけがあります。
「○菌」については、厳密な意味と生活レベルでの理解がかなり異なります。
生活者からすると、細菌も真菌もウイルスも「人に感染して病気を引き起こす微小なもの」と理解したくなります。そして実際に、抗菌コーティングや殺菌剤で細菌も真菌もウイルスも退治できます。
そのため、一般的に抗菌コーティングや殺菌剤といった場合、「やっつける」対象は細菌と真菌だけでなくウイルスも含まれていることがあります(*4、5)。

*4:https://www.sat.co.jp/knowledge/sterilize/
*5:http://www.med.osaka-cu.ac.jp/bacteriology/b-online/btext/btext11.shtml

「○菌」用語が氾濫したのは悪用を防ぐため?

「○菌」用語が氾濫したのは悪用を防ぐため?

「○菌」用語が氾濫(はんらん)しているのは、言葉を悪用する人がいたからと考えられます。

国の承認を得ずに「滅菌、殺菌、消毒」は使ってはいけない

国の承認を得ずに「滅菌、殺菌、消毒」は使ってはいけない
出典:e-GOV 法令検索

薬機法は第68条で、厚生労働大臣の承認を受けないで医薬品の効能や効果を広告してはならないと規定しています(*6)。弁護士のなかには、この法律を根拠にして、「商品に滅菌、殺菌、消毒と表記するには、薬機法上の承認を得なければならない」と指摘する人もいます(*7)。
つまり、ある企業が細菌やウイルスを死滅させる成分を開発しても、それを国の承認を得ずに「殺菌剤です」とPRして販売してはならない、ということになります。

国が法律で「滅菌、殺菌、消毒」という用語を簡単に使わせないようにしているのは合理的といえるでしょう。
なぜなら「滅菌、殺菌、消毒」には細菌やウイルスを全滅させるという意味があるので、その効果が実証されていない商品の名称にこれらの用語が使われていれば、消費者が混乱してしまうからです。
殺菌効果がないのに「殺菌剤」として売るのは詐欺的な行為です。

*6:https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=335AC0000000145
*7:https://www.yu-kobalaw.com/column/column-459

「除菌、抗菌、減菌」は細菌やウイルスを退治するニュアンスをうまく伝えている

殺菌の定義に当てはまらなくても、細菌やウイルスを抑制できる商品は存在します。そこで編み出されたのが「除菌、抗菌、減菌」という用語です。
「除菌、抗菌、減菌」なら、安易に使うことが法律で禁じられている「滅菌、殺菌、消毒」を使わずに、細菌やウイルスを退治するニュアンスを消費者に伝えることができます。

だからといって「除菌、抗菌、減菌」を安易に使うことも許されない

だからといって「除菌、抗菌、減菌」を安易に使うことも許されない
画像:コロナ禍において氾濫した◯菌グッズ

では「滅菌、殺菌、消毒」は使ってはならないが、「除菌、抗菌、減菌」なら自由に使えるのか、というとそうはなりません。
例えば、公正取引委員会の認定を受けている団体「洗剤・石けん公正取引協議会」は、除菌基準を満たしていない合成洗剤や石けんに「除菌」とつけてはいけない、と決めています(*8、9)。
同協議会はさらに、除菌を、「物理的、化学的又は生物学的作用などにより、対象物から増殖可能な細菌の数(生菌数)を有効数減少させること」と定義しています。このルールは厳密で、ここでいう細菌には真菌もウイルスも含みません。

このルールは法律よりは拘束力や規制力は弱いものの、ビジネス倫理上、企業は必ず守らなければなりません。
つまり、企業が「除菌できます」「抗菌できます」「減菌できます」とPRして商品を売るのであれば、実験などを行って効果を実証しなければなりません。
消費者から「なぜ除菌できるといえるのか」と問われたら、企業は「Xという実験をして、微生物をYだけ減らしたからです」と答えられなければなりません。

そして多くの一般の生活者は、細菌も真菌もウイルスも一緒くたにしているので、「除菌できます」「抗菌できます」「減菌できます」とPRするなら、細菌や真菌だけでなく、ウイルスも不活化させる力を持っていなければならないでしょう。

*8:https://jsda.org/w/web_jftc/index.html
*9:https://jsda.org/w/web_jftc/koutorikyo/jyokinhyouji.pdf

抗菌コーティング「ティタノ」は自信をもって「抗菌できる」といえます

抗菌コーティング「ティタノ」は自信をもって「抗菌できる」といえます

当社は「ティタノ」のことを「抗菌コーティングです」と紹介しています。そして「ティタノを塗布すれば、事務所などの空間を丸ごと抗菌できます」とPRしています。
これほど自信があるのは、実験をして以下の効果を確認しているからです(*10)。

<ティタノの抗菌効果>

  • 大腸菌:5分で99.999%減
  • 黄色ブドウ球菌:2時間で99.999%減
  • カンジダ・アルビカンス:1時間で99.98%減
  • コロナウイルス(風邪を引き起こすウイルス):24時間で90%減
  • ノロウイルス:24時間で99.999%減

さらにこれらの効果が、1回のコーティング(塗布)で1年間持続することも確認しています。

*10:https://titano-coating.jp/

まとめ~清潔好きだから清潔用語が多い?

まとめ~清潔好きだから清潔用語が多い?

本記では触れませんでしたが、実は「○菌」用語には、静菌という言葉もあります。抗菌には、細菌を殺す殺菌的抗菌と、細菌の発育速度を抑える静菌的抗菌があり、後者のことを静菌といいます。
「もう何がなんだかわからない」と感じた方は、殺菌と抗菌の2つを覚えておけばよいと思います。国が効果を認めたものが殺菌で、企業が効果を実証したものが抗菌、と理解してはいかがでしょうか(何の裏付けもないまま抗菌を謳っている悪質業者にはご注意下さい)。

「○菌」用語に種類があるのは、日本人がそれだけ菌に対して繊細になっているからでしょう。菌と人が関わるシーンをいくつも想像して、それぞれのシーンに応じた名称をつけているわけです。
繊細になる対象にいろいろな名前をつけてしまうのは日本人の癖かもしれません。「コメ、玄米、白米、精米、うるち米、ご飯、ライス、無洗米」はすべて、1種類の植物の実の名前です。
「○菌」用語の数の多さは、清潔を貴ぶ日本人の気質を象徴しているのかもしれません。

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