感染症対策を歴史に学んで、オミクロンを知って、コロナ時代を生き抜く

感染症対策を歴史に学んで、オミクロンを知って、コロナ時代を生き抜く

コロナ禍はすでに歴史をつくり始めています。
2019年末に中国・武漢で新型コロナウイルスがみつかり、2020年に世界中を脅威に陥れ、2021年に変異株のデルタ株が猛威を振るい、2022年にさらに変異したオミクロン株が追い打ちをかけます。
これは悲劇の歴史であり、2022年1月11月までに、世界で5,493,049人が新型コロナで亡くなりました。世界の感染者数は309,222,466人で、日本の人口1.2億人の2.6倍になります(*1)。

「なぜこんな時代になってしまったのか」と嘆きたくなりますが、しかし人類の長い歴史を振り返ると、ウイルスに苦しめられることは珍しくないことがわかります。

ではなぜ新型コロナ前は、人々はウイルスの脅威を忘れることができていたのでしょうか。
それは、過去の感染症対策がなんとかウイルスを封じ込めることができたからです。

ではなぜ、多くの専門家は、これからも新型コロナと共存するウィズ・コロナが必要になるというのでしょうか。なぜ、「新型コロナを制圧できる」といってくれる人がいないのでしょうか。

答えを先に紹介すると、「ウイルスとの戦いの歴史を知ると、ウィズ・コロナが人類の限界であるとわかるから」となります。

*1:https://vdata.nikkei.com/newsgraphics/coronavirus-world-map/

人類は誕生してからずっとウィズ・ウイルスだった

「あなたはこれからずっとウィズ・コロナで生活しなければならない」といわれると、恐怖におびえながら面倒で手間な生活を強いられる、というイメージが湧くと思います。
しかし、新型コロナのようなウイルスと一緒に暮らすことは、珍しいことではありません。

ウイルスが人類を変えてきた面もある

株式会社ジーンクエストの代表取締役、高橋祥子氏
出典:https://www.euglena.jp/times/archives/14783

遺伝子の専門家で、遺伝子解析をする株式会社ジーンクエストの代表取締役、高橋祥子氏は、人類は誕生したときからウィズ・ウイルスで生きてきた、と指摘しています(*2)。

ウイルスが誕生したのは30億年前で、人類の誕生は20万年前です。ウイルスは人類の大先輩であり、しかもウイルスは人類に感染することで人類を変えてきました。

もう少し詳しく解説します。
人が進化できたのは、DNAが進化したからです。DNAは、細胞のなかの核のなかの染色体のなかに入っている糸状の物質で、ここに遺伝情報が書かれています。

DNAは遺伝によって進化します。つまり、親から子へ、孫へとDNAを受け継がれる過程でDNAが変化して、それが人を変化させてきました(*3、4)。よい変化のことを進化といいます。

そしてもう1つ、人を進化させたものがあり、それがウイルスです。
ある種のウイルスが、人に感染して人の進化を促していたことがわかっています(*5、2)。
理化学研究所は、現代の一部の日本人のDNAに、古代ウイルスに感染した痕跡があることを突き止めています(*6)。
つまり、今の人類が今の形と性質を持っているのは、ウイルスのお陰でもあるのです。
こうなると「ウィズ・ウイルス」どころか「ウイルス、サンキュー」といってもいいくらいです。

*2:https://www.euglena.jp/times/archives/14783
*3:https://www.nig.ac.jp/museum/evolution-x/02_a.html
*4:https://www.jba.or.jp/top/bioschool/seminar/q-and-a/iden_info/iden1/iden1_04.html
*5:https://www.jiji.com/jc/v4?id=202006sss0001
*6:https://www.riken.jp/press/2020/20200903_2/index.html

ウイルスとの共存の3つのパターン

ウイルスとの共存の3つのパターン

ただウイルスのなかには、新型コロナやインフルエンザ、ノロなどのように、人類にとって脅威になるものも存在します。
高橋氏によると、脅威になるウイルスと人類が共存するパターンは3つあります。

<脅威になるウイルスと人類の共存するパターン>
パターン1:人類がウイルスに滅ぼされる
パターン2:ウイルスが増殖できなくなって消滅する
パターン3:ウイルスは存在し続け、人類が多少制圧できても隙あらば人類を襲う

新型コロナは、どのパターンになるのでしょうか。

パターン1(人類滅亡)はなさそう

人類はいまだにウイルスに滅ぼされたことがないので、いくら新型コロナやオミクロン株が脅威であるとはいえ、パターン1(人類滅亡)が起きるとは考えられません。

パターン2(新型コロナ消滅)は夢ではないがバラ色でもない

コロナ禍がパターン2(新型コロナ消滅)になることは楽観的すぎると感じるかもしれませんが、そうでもありません。

例えば、ポリオ(急性肺灰白髄炎)という病気は、ポリオウイルスに感染して発症しますが、ポリオワクチンが開発されたので、それを打てばポリオは発症しません。日本では1981年以降、ポリオの発症例は報告されていません(*7)。
そして、オルソポックスウイルスに感染することによって発症する天然痘にいたっては、WHO(世界保健機関)が1980年に世界根絶宣言をしました(*8)。

高橋氏は、新型コロナもパターン2になりうると指摘しています。もちろん2022年の今は、新型コロナが地球上から消え去るといった楽観的なシナリオは描けないわけですが、可能性としてはゼロではありません。

では、パターン2がバラ色のシナリオなのかというとそうではなく、新型コロナが増殖できなくなっても、別のウイルスが出てきて感染症を起こすことが十分考えられます。

*7:https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/kekkaku-kansenshou/polio/index_00001.html
*8:https://www.forth.go.jp/keneki/kanku/disease/dis04_07sma.html#:~:text=%E6%B5%81%E8%A1%8C%E5%9C%B0,%E3%81%8C%E6%8C%87%E6%91%98%E3%81%95%E3%82%8C%E3%81%A6%E3%81%84%E3%81%BE%E3%81%99%E3%80%82

インフルエンザ並みになればパターン3

パターン3は、帯状疱疹やヘルペス、インフルエンザなどが該当します。
これらのウイルスは人の近くに存在するものの、人の免疫が強いうちは感染症(帯状疱疹やヘルペス、インフルエンザ)を発症せず、免疫が弱ったときに感染症を起こします。

新型コロナはこれまでの変異で、デルタ株になったりオミクロン株になったりして、その都度恐さを増していますが、変異の仕方によっては脅威が減る可能性があります。
新型コロナがパターン3になれば、ウィズ・コロナであっても、インフルエンザを警戒する程度の警戒で済むようになります。

恐くなるか、弱くなるかは偶然

ここまでの説明で、次のような疑問が湧くと思います。

●なぜ新型コロナは、パターン2(ウイルスが増殖できなくなって消滅する)になるかもしれないし、パターン3(ウイルスは存在し続け、人類が多少制圧できても隙あらば人類を襲う)になるかもしれないのか。
なぜ、必ずどちらかになる、といえないのか。

この答えは「わからない」です。
新型コロナがこれからも変異を繰り返していくことは確実ですが、その行き着く先がパターン2なのかパターン3なのかは、新型コロナ自身もわかっていません。
なぜなら、ウイルスが人類にとって脅威になるか、人類にとって安全なウイルスになるかは、偶然によって決まるからです(*9)。

新型コロナの変異株は、実はこれまでに10万種類もできています(*9)。そのなかには、人類にとって恐くないウイルスもあったはずです。
したがってオミクロン株やデルタ株は、「新型コロナ変異株界のエース」のような存在といえます。
人類としては、偶然に、エース級の変異株が消えることを待つしかありません。

*9:https://mainichi.jp/articles/20211206/k00/00m/040/118000c

オミクロン株が重症化しにくくても依然として強い脅威である理由

オミクロン株が重症化しにくくても依然として強い脅威である理由

歴史の話から外れてしまうのですが、オミクロン株は現在最も重要なテーマなので、少し解説を加えます。

オミクロン株は重症化しにくいという説が出回っていて、これは信憑性がありそうです。というのも政府も2022年1月の段階で「オミクロン株では重症化しにくい可能性が示唆されている」という見解を示しているくらいです(*10)。

では、オミクロン株が、オリジナルの新型コロナやデルタ株より弱い相手なのかという、まったくそのようなことはありません。
なぜなら、オミクロン株は、1)感染力が強いうえに、2)人がワクチン接種や自然感染によって免疫を獲得しても、それを回避する性質がある、と考えられているからです。
つまり、オミクロン株の毒性が多少弱かったとしても、強い感染力と巧みな免疫回避力によって人類を十分痛めつけることができてしまうわけです(*10)。
「偶然に、エース級の変異株が消える状況」は簡単には訪れません。

*10:https://corona.go.jp/expert-meeting/pdf/kihon_h_taishou_20220107.pdf

歴史が示す事実:人類はウイルスに勝てない

ウイルスが人類と話せたとします。
そして、ウイルスに苦しめられている人類が、ウイルスに和平交渉を持ちかけたとします。
人類側が「人類はもう、あなたを攻撃しないので、あなたも人類を攻撃しないでください」と提案したら、ウイルスはこう答えるでしょう。
「どんどん攻撃してもらっていいよ。人類の攻撃なんて全然恐くないから」と。

歴史が示す事実:人類はウイルスに勝てない

ウイルスと人類では、戦闘能力が違いすぎます。
人類は「ウイルスと戦っている」と思っていますが、ウイルスのほうは「楽勝すぎて相手にならない」と思っているはずです。
このことは歴史が証明しています。

2000年以上かかって初の、そして唯一の白星をあげる

人類がウイルスに勝つことができたのは、天然痘だけです(*11、12)。
先ほど、ポリオは日本では1981年以降発症していない、と説明しましたが、世界ではまだポリオに苦しんでいる人がいます。

人類初の、そして唯一の白星となった天然痘との戦いですが、これもようやく勝てた状態です。
エジプトのミイラにも、天然痘の痕跡(こんせき)が確認されています。人類は、紀元前から天然痘に苦しめられていました。
日本で天然痘が流行したのは6世紀のことで、15世紀には、コロンブスが新大陸を発見したことで、アメリカ大陸で大流行しました。
WHOの天然痘の世界根絶宣言が1980年なので、人類は2,000年以上かけてようやく1勝をあげたにすぎません。

*11:https://www.seirogan.co.jp/fun/infection-control/infection/pandemic.html
*12:https://www.mhlw.go.jp/wp/hakusyo/kousei/04/dl/1-2.pdf

人類がウイルスに勝つことができたのは、天然痘だけで

出典:ウィキペディア(天然痘ウイルス)

ペストは今でも生きている

ペストはウイルスではなく、ペスト菌という菌によって感染が広がります。
菌はウイルスの50倍の大きさで、菌は細胞を持っていますがウイルスは細胞を持たない、という違いがあります。

日本人で、身近な人がペストで亡くなった経験がある人はいないでしょう。そのためペストは、化石のような病気と呼ばれることがあります。
しかしペストは、細々とではあるものの生き続けていて、WHOによると1998~2008年の間に11カ国で23,278件発症しています(*13)。

14世紀のヨーロッパでは、全人口の1/4~1/3にあたる2,500万人がペストで死亡しています。新型コロナによる死者数が世界で約550万人なので、ペストが当時の人類に与えた衝撃は相当なものだったはずです。

ペストがその後沈静化したのは、人類の勝利であるといえなくもないのですが、完全に勝ったとまではいえないでしょう。

ペストはクマネズミというネズミが菌を広げて大流行しました。クマネズミは家のなかや倉庫といった人がいるところを好んでいて、しかも当時の人々は衛生の意識が低かったので、両者は簡単かつ頻繁に接触していました。

その後、人々に衛生の意識が広まりクマネズミを遠ざける生活スタイルになりました。
それはクマネズミが生存しにくい環境をつくることになり、クマネズミの勢力が落ちてきました。そしてドブネズミの勢力が強まったことで、クマネズミはさらに力を弱めていきました。
ドブネズミは排水管のなかなど人が好まないところを好むので、ドブネズミと人が接触する機会は減りました。
人が衛生的になってネズミと隔離されたことで、ペストの流行が沈静化しました(*13)。

こうした地道な取り組みの結果、ペストの世界的な流行は、1903~1921年を最後に現在まで起きていません。ただその最後の世界的流行でも、1,000万人の人が亡くなっています。

ペストを抑え込むことができたのは、ペスト菌の発見も貢献しています。1894年に北里柴三郎(1853~1931年)が世界で初めてみつけました。
そして、抗生物質などの抗菌薬が開発されたことで、ペストを化石の病気にすることができました。

それでもいまだに、小規模ではあってもペストで亡くなる人がいるのは、すぐに抗菌薬を使える医療体制になっていない国・地域があるからです。
1998~2008年の間に発見された23,278件のペストの95%以上はアフリカでみつかっています。

元国立感染症研究所室長で、新型コロナの報道でたびたび登場するアメリカの疾病対策センター(CDC)にもいたことがある、加藤茂孝氏によると、ペストで2億人以上が死亡しています。
それだけの犠牲を払い、抗菌薬という武器を手にしても、人類はペストを根絶できません。つまりいまだに、ウィズ・ペスト状態にあるわけです(*14、15、16)。

ペストの主な発生地域

出典:厚生労働省(ペストの主な発生地域)

*13:https://www.eiken.co.jp/uploads/modern_media/literature/MM1002_03.pdf
*14:https://amr.ncgm.go.jp/general/1-1-2.html
*15:https://www.niid.go.jp/niid/ja/kansennohanashi/514-plague.html
*16:https://mitaka-univ.org/kouza/B2150800

インフルエンザにいたってはなすすべもない

新型コロナの登場により、多くの人がインフルエンザを軽視するようになりましたが、それは正しい認識ではありません。
直接的または間接的にインフルエンザが原因となって亡くなる人の数は、いまだに日本で年1万人にもなりますし、世界では25万~50万人にもなります(*17)。
新型コロナによる死者数は、日本では2022年1月11日までの累計で18,401人なので、インフルエンザを軽視できる要素は1つもありません(*18)。

インフルエンザとの戦いの歴史は、惨敗の記録といってよいでしょう(*11)。

インフルエンザにいたってはなすすべもない

●1918年、スペイン風邪の大流行:世界人口18億人の時代に、世界で4,000万人(2.2%)が亡くなる
●1957年、アジア風邪の大流行:世界で200万人が死亡
●1968年、香港風邪の大流行:世界で100万人が死亡
●2009年、新型インフルエンザの大流行:世界214の国・地域で、2万人が死亡

インフルエンザへの対抗手段にはワクチンがありますが、医療先進国の日本ですら、ワクチンを接種してもインフルエンザに感染してしまうことがあります。
それはインフルエンザには種類があるからです。製薬メーカーは、これから流行するであろう型を予測して、その型に合ったワクチンをつくります。そのため、実際は異なる型が流行したら、ワクチンを打っていても予防できません(*19)。

そしてもう1つ残念な事実があります。
インフルエンザ・ワクチンは、重症化、肺炎、死亡のリスクは下げるものの、感染そのものは抑えません(*20)。
WHOの感染症対策部に派遣された経歴を持つ国立病院機構三重病院院長の谷口清州氏は「インフルエンザは絶対に鎮圧できない」と断言しています(*21、22)。
再びインフルエンザを擬人化すると、人類は完全にインフルエンザにもてあそばれています。

*17:https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou04/02.html
*18:https://vdata.nikkei.com/newsgraphics/coronavirus-world-map/
*19:http://medical.radionikkei.jp/kansenshotoday_pdf/kansenshotoday-151111.pdf
*20:https://www.mhlw.go.jp/kinkyu/kenkou/influenza/dl/infu090828-02.pdf
*21:https://www.yakult.co.jp/healthist/220/img/pdf/p02_07.pdf
*22:https://www.tkfd.or.jp/experts/detail.php?id=678

まとめに代えて~「ウィズ」が意味することを考える

新型コロナのワクチンが早々に実用化されたことは、「人類ってすごいな」と誇れることだと思います。
しかし手放しで喜ぶことはできません。当初、ワクチンは2回打てばよいはずでしたが、いまでは3回打つことが常識になり、4回目の接種を始めた国もあります(*23)。
日本の厚生労働省は、新型コロナ・ワクチンについて次のように説明しています(*24)。

<新型コロナ・ワクチンには感染を予防する効果が確認されているが、時間の経過とともに感染予防効果が徐々に低下する可能性がある>

「ワクチンがあればウィズ・コロナできる」とよくいわれます。これは、新型コロナと共存できるという意味だと思います。
では共存とはどのような状態のことをいうのでしょうか。

共存には、一緒に暮らして楽しく生きていく共存と、嫌だけど仕方がないから苦しいのを我慢して生きていく共存があります。
歴史を調べると、新型コロナとの共存は、残念ながら、後者の我慢を強いられる共存になることがわかります。

ウィズ・コロナとは、「一緒にいても大丈夫」な状態ではなく、「警戒していればなんとか大丈夫」な状態であることを忘れてはいけないのでしょう。

漫画「進撃の巨人」の冒頭に、長年にわたって平和に暮らしていた人々が、突如現れた巨人をみて、次のようにいうシーンがあります。

「その日、人類は思い出した。ヤツらに支配されていた恐怖を。鳥籠のなかに囚われていた屈辱を。」

人々が平和に暮らすことができていたのは、「巨人が人類を襲わないでいてくれただけ」だったわけです。
「新型コロナ前は幸せだった」と感じることがあると思いますが、しかし正しくは「ウイルスが人類を攻撃しないでくれた期間があっただけ」だったのかもしれません。

*23:https://www3.nhk.or.jp/news/html/20220101/k10013411151000.html
*24:https://www.cov19-vaccine.mhlw.go.jp/qa/0011.html

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